東京地方裁判所 平成7年(ワ)2706号 判決 1995年12月27日
甲事件原告、乙事件被告
郷右近望
甲事件被告
西真徳
乙事件原告
日本火災海上保険株式会社
主文
一 甲事件被告は、甲事件原告(乙事件被告)に対し、一五四六万一三九六円及びこれに対する平成元年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件被告(甲事件原告)は、乙事件原告に対し、一五四一万五四二七円及びこれに対する平成七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を乙事件原告及び甲事件被告の、その余を甲事件原告(乙事件被告)の負担とする。
五 この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 甲事件
甲事件被告は、甲事件原告に対し、七四八三万九一五二円及びこれに対する平成元年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 乙事件
乙事件被告は、乙事件原告に対し、二二四二万四六八四円及びこれに対する平成七年三月二日(遅延損害金の起算点は訴状送達の日の翌日である。)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実及び容易に認定し得る事実
1 事故の発生
(一) 日時 平成元年六月一一日午前一〇時五〇分ころ
(二) 場所 東京都渋谷区本町三―一二先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 原告車 甲事件原告(乙事件被告。以下、単に「原告」という。)が所有し、同人が運転する自動二輪車
(四) 被告車 甲事件被告(以下、単に「被告」という。)が所有し、同人が運転する普通乗用車
(五) 事故態様 原告車が、環状七号線方面と新宿方面とを結ぶ道路(以下「本件道路」という。)上を新宿方面に向かつて直進し、本件交差点を通過しようとしたところ、反対車線から本件交差点内に進入して東中野方面に向かつて右折進行しようとした被告車と衝突した(以下「本件事故」という。)
2 本件事故の結果
(一) 本件事故によつて、原告車は大破し(甲二)、原告自身も右大腿・下腿開放骨折、足関節脱臼骨折、右下腿筋肉の挫滅等の傷害を受け、日本赤十字医療センターにおいて入院一一六日(平成元年六月一一日から七月二一日まで、一〇月一七日から一一月一五日まで、平成三年八月一日から同月二一日まで、一一月四日から同月二七日までの各期間)、通院実日数五一日(通院期間は平成元年六月一一日から平成五年九月九日まで)の治療を受けた(甲四、五)。
そして、原告は、足関節の可動域制限等により、自賠責保険の査定手続において、後遺障害併合七級の認定を受けるに至つた。
(二) また、本件事故によつて被害車が転倒して歩道上に乗り上げたため、歩道上にいた桑村幸成(以下「桑村」という。)もこれに衝突して負傷し、治療費、入院付添費、休業損害、逸失利益等合計四一八七万〇八五五円の損害を被つたところ、桑村は、原告車及び被告車に付されていた各自賠責保険契約に基づく自賠責保険金六九二万円、計一三八四万円(当裁判所には顕著な事実である。)のほか、後記4のとおり被告と自家用自動車保険契約を締結していた乙事件原告から二八〇三万〇八五五円を受領した。
3 原告の損害の填補
原告は、療養給付金として二七九万六六四八円、休業補償給付金として一六八万五九九八円のほか、被告から三〇九万六四九〇円(任意保険会社からの給付金。治療費名目で支払われている。)、九四九万円(自賠責保険金)を受領している。
4 被告と乙事件原告との自家用自動車保険契約の締結並びに乙事件原告の賠償金の支払及び桑村の損害賠償請求権の取得
被告は、本件事故当時、乙事件原告との間で自家用自動車保険契約を締結していたため、前記2のとおり、乙事件原告は桑村に対して二八〇三万〇八五五円を支払い、商法六六二条により、桑村の損害賠償請求額のうち、乙事件被告の負担すべき割合に相当する損害賠償請求権を取得した。
三 争点
1 本件事故の態様及び本件事故に対する原告及び被告の過失割合
(一) 原告の主張
本件事故は、原告が本件交差点に進入直前に対面信号が黄色に変わつたために急停止することができず、そのまま止むなく本件交差点内に進入したところ、被告が前方を注視することなく早回り右折したために発生したものである。原告車の進入は急停止措置をとり得ない状況下におけるものであるから、青信号での進入と同視すべきである。
(二) 被告及び乙事件原告の主張
本件事故は、被告が赤・右折青矢印信号に従つて右折進行したにもかかわらず、原告が対面信号の赤色の表示を無視して本件交差点に進入したために発生したものである。
2 原告の損害
(一) 原告の主張
1 治療関係費(なお、訴状の請求額は労災給付金及び乙事件原告からの既払金を控除した残額のみが記載されている。)
(一) 治療費 六〇九万〇七三七円
原告は、労災保険給付中の療養給付金二七九万六六四八円、乙事件原告から支払われた三〇九万六四九〇円のほか、一九万七五九九円(個室ベツド使用料九万四〇〇〇円、医療用ホツチキス一万五二四〇円、装具、靴代金八万八三五九円)の合計六〇九万〇七三七円の治療費を要する治療を余儀無くされた。
(二) 入院雑費 一五万〇八〇〇円
一日当たり一三〇〇円として一一六日分である。
(三) 通院交通費 二八万五〇〇〇円
自宅から病院までのタクシー代五〇〇〇円の五七日分(通院と入退院回数)である。
(四) 文書料 一万八〇〇〇円
(五) リハビリ治療費関係 六万〇〇三〇円
リハビリ治療のため、スポーツセンター関係として二万一六三〇円、交通費として三万八四〇〇円(一六〇〇円の二四回分)である。
2 休業損害 三四二万三一二六円
原告は、本件事故当時、人気上昇中の小劇団に所属する舞台俳優で生活のためホテルで皿洗いの仕事をしていたところ、本件事故により休業を余儀無くされ、日当七六五八円の四四七日分計三四二万三一二六円の休業損害を被つた(なお、訴状では、治療関係費と同様、労災給付金中休業補償給付金等を控除した残額が記載されている。)。
3 逸失利益 六二五三万八四二七円
舞台俳優の仕事をしていた原告は、本件事故当時、アルバイトで生計を建てていたが、コマーシヤル、舞台の仕事が順調で、しばらくすれば収入も増加することは間違いないから、右アルバイト収入を基礎とすべきではなく、少なくとも、大卒男子の平均年収(六五六万二六〇〇円)を基礎とすべきである。そして、労働能力喪失期間を症状固定時の二八歳から六七歳までの三九年のライプニツツ係数を一七・〇一七、労働能力喪失率を五六パーセントとすると、以下のとおりとなる。
六五六万二六〇〇円×〇・五六×一七・〇一七=六二五三万八四二七円
4 慰謝料
(一) 入通院慰謝料 三〇〇万円
(二) 後遺症慰謝料 一〇〇〇万円
5 物損
(一) バイクの修理代金 七万五七〇五円
(二) バイクの回送料 二万七二九五円
6 弁護士費用 六八〇万三五五九円
(二) 被告の認否、反論
1 1の治療関係費のうち、(一)の治療費については、労災保険給付中の療養給付金として支払われた二七九万六六四八円、乙事件原告から支払われた三〇九万六四九〇円の合計額五八九万三一三八円の限度で認め、その余は不知。2の休業損害は認め、3ないし6はいずれも不知ないし否認する。
2 逸失利益について
(一) 基礎収入
一般に俳優の仕事は運やチヤンスに左右され、変動の大きい職種であり、ことに原告のように小劇団の舞台俳優の大多数は、アルバイトで生計を立てると同時に劇団運営にかかる経費を劇団に差し入れているものであつて、原告主張のように、舞台俳優の収入がアルバイト収入を上回る蓋然性は存在しないというべきであり、事故前のアルバイト収入額である二七九万五一七〇円(七六五八円×三六五日)を基礎収入額とすべきである。
(二) 労働能力喪失率
原告の後遺障害の内容は、右下肢の醜状(一二級相当)、受傷に伴う右腓骨の偽関節(八級九号)、右足関節機能障害(一二級七号)、右腸骨からの採骨による骨盤の変形(一二級五号)の併合七級であるところ、右足関節機能障害以外の後遺障害は特段労働能力喪失には結びつくものではないから、原告主張に係る労働能力喪失率は失当である。
第二争点に対する判断
一 本件事故の態様及び原被告の過失割合
甲二、三 乙一、原告及び被告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1 本件事故現場付近は、別紙現場見取図(以下「別紙図面」という。)のとおりであり、中目黒方面と東中野方面とを結ぶ通称山手通りと環状七号線方面と新宿方面とを結ぶ通称方南通り(以下「本件道路」という。)が交差する交差点内である。本件道路のうち、本件交差点内に進入する側の車線は直進又は左折車のための第一車線と右折車のための第二車線が設置されているが、本件交差点から出る側の車線は一車線のみである。本件交通事故現場は市街地内にあり、本件事故当時も本件道路は交通の頻繁な状況であつたと推認することができる。
本件交差点内の本件道路の対面信号には、一般の青色、黄色、赤色の表示のほかに、黄色の次に赤色・右折青矢印の表示がある。
2 原告は、本件事故当時、原告車で自宅からアルバイト先の新宿のヒルトンホテルに向かう途中であり、普段と同様の行程であつた。原告が本件交差点の手前に差し掛かつた時、原告車の対面信号は黄色であつた。原告は、いつも信号の変わり目で交差点に進入するとしばしば警察官に止められて注意を受けた経験を有していたため、本件交差点角の清水橋派出所に目を向けたところ、警察官が机に向かつて何かをしていて自分の方を見ていないことを確認することができたので、そのまま停止することなく、それまでの時速四〇キロメートルからアクセルを開けて加速しながら、時速五〇キロメートルには届かない程度の速度で本件交差点に進入した。しかしながら、原告車は、本件交差点から出る直前である別紙図面<イ>の地点に到達した時、対向車線から右折しようとした被告車と別紙図面<×>の地点で衝突した。原告は、本件交差点に入る直前には被告車は見ておらず、衝突する直前にその存在に気付いたものである。
なお、原告は、本件交差点進入直前に信号が黄色にかわつたが、急停止措置をとるとかえつて危険であると判断したために本件交差点に進入せざるを得なかつた旨主張し、かつ原告本人尋問においてこれに沿う供述をする。しかしながら、(a)原告が右派出所内を見た理由が、信号が黄色に変わつたのに交差点に進入することについて警察官から注意を受けないために予め右派出所内の警察官の動向を認知しようとした点にあつたことからすると、仮に警察官が原告車の方向を見ていた場合には警察官からの注意を受けないように急停止措置をとろうとしていたと推認され、信号が黄色に変わつた時点では十分に停止することが可能であつたと推認できること、(b)原告の前記主張は原被告間の過失割合を認定する上で重要な事実であるにもかかわらず、第二回口頭弁論期日に提出された原告の陳述書(甲三)からは、対面信号が本件交差点に入る直前に突然黄色に変わつたために急停止措置をとることもできず止むなく交差点に進入せざるを得なかつたというような切迫した事情が全く窺えないこと(原告の前記主張に係る事実は、右口頭弁論期日から相当期間経過した後に初めて提出されたものである。)、(c)本件交差点内に進入する直前の速度(時速四〇キロメートル)と加速した速度(時速五〇キロメートル未満)で本件交差点を走行していたとすれば、信号が黄色に変わつたと供述する別紙図面の線と衝突地点<×>との距離や、後記認定のとおり被告車が赤信号・右折青矢印を認知してから発進していることからするとそもそも原告車が被告車と衝突することがあり得るのか疑問が残ることを勘案すると、本件交差点の原告車の対面信号が交差点進入直前に黄色になつたために急停止措置をとり得ず止むなく本件交差点内に進入したとの原告の主張は採用することはできず、かえつて、対面信号が黄色であることを確認した際に、停止措置を講ずれば、安全に本件交差点手前で停止することが可能であつたと認めることができる。
3 被告は、本件事故当時、和歌山県新宮市内の実家から北新宿の住居に寄託する途中であり、本件道路を環状七号線方面に向かい、本件交差点を右折して東中野方面に向かう予定であつた。
被告は、本件交差点に入る直前の別紙図面<1>の地点で対面信号が黄色になつたのを認知したので<2>の地点で停止し、その後発進して右折を実行しようと<3>の地点でハンドルを右に切つた。そして、被告は<4>の地点に到達した時に対向車線を走行する原告車のライトを初めて発見したものの、<5>の地点で原告車と衝突するに至つた。
以上のとおり、被告は右折実行を開始してもなお原告車の存在には全く気付いていなかつたことからすると、右折実行に当たつて被告は全く対向車線の交通状況を注視していなかつたことが認められるが、他方、交通頻繁な本件道路の対向車線を横切つて右折する危険性を勘案すると、被告は<2>の地点で自車が安全に右折し得る赤信号・右折青矢印になつたのを確認した上で右折を開始するために発進したと推認することができる。
なお、被告車の右折方法は、交差点中央に車両を進めてから横切る方法ではない、いわゆる早回り右折である。
以上の事実を総合すると、原告は、対面信号が黄色になつたのであるから、本件交差点内への進入を控えるか、対向右折車の状況に対して細心の注意を払いながら進行すべきであるにもかかわらずこれを怠つたことが認められるが、他方、被告は、対面信号が赤信号・右折青矢印の表示であることを確認して本件交差点内に進入したものの、本件交差点中心付近まで被告車を進めた上、さらに対向車線の直進車の状況を十分確認して右折を実行すべきであるのにこれを怠つたことが認められるところ、原告、被告の本件事故発生に対する過失割合としては、原告五、被告五とするのが相当である。
二 原告の損害額について
1 治療関係費 六〇三万二三三八円
(一) 治療費 五八九万三一三八円
原告請求に係る治療費中、前記認定に係る金額の限度では当事者間に争いがないが、個室ベツド使用料(九万四〇〇〇円)については、個室を使用しなければならない個別具体的な必要性、相当性を裏付ける具体的事実が明らかでないのみならず、右金額を支出したことを認める証拠が全くなく、医療用ホツチキス(一万五二四〇円)、装具、靴代金(八万八三五九円)については、いずれもその目的、必要性に関する具体的事実が明らかでないのみならず、右金額を支出したことを認める証拠が全くない。
(二) 入院雑費 一三万九二〇〇円
一日当たり一二〇〇円を相当と認め、一一六日分を算定した。
(三) 通院交通費 認めない
原告が通院した際には、その傷害状況からタクシーを利用する必要性を一応肯認することはできるものの、一回当たり五〇〇〇円であること、現実にタクシーを利用したことを認めるに足りる証拠が全くない。
(四) 文書料 認めない
原告が、文書料として請求に係る金額を支出したことを認めるに足りる証拠が全くない。
(五) リハビリ治療関係費 認めない
原告が前記認定に係る後遺症を克服するために施設でリハビリを受けたであろうことは一応推察されるものの、これによつて原告の請求に係る金額の支出をしたことを認めるに足りる証拠が全くないのみならず、前記後遺症が将来も残存することによる原告の精神的苦痛が後記認定に係る慰謝料で慰謝されると考える以上、特段の事情のない本件において、後遺症の回復のための費用を別途損害賠償請求し得るとすることは相当性を欠き認めることができない。
2 休業損害 三四二万三一二六円
前記金額については、当事者間に争いがない。
3 逸失利益 三九六七万六三六九円
(一) 基礎収入
前記争いのない事実、前記認定事実、甲三、六、八、一〇、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、原告は新宿のヒルトンホテルで皿洗いのアルバイトをしながら劇団で舞台俳優の仕事を続けていたこと、収入は右アルバイトからの賃金(日額七六五八円と認められ、年収二七九万五一七〇円となる。)のみであり、劇団からの収入は全くなかつたこと、本件事故当時はコマーシヤルの仕事が入り出したころであり、監督等の人的関係で他の仕事を得られる可能性もあつたこと、現在はコマーシヤルのスタッフとの関係で舞台俳優を映像方面に紹介するマネージメントの仕事を行つており、年収が三六〇万円程度あることが認められるところ、原告の本件事故当時の現実の年収が二七九万五一七〇円であり、本件事故がなければ依然舞台俳優を勤めながら前記アルバイトを継続していたであろうことからすると、たとえ、コマーシヤル等の仕事を新たに得られたとしても、原告が前記アルバイト収入を超えて原告主張に係る大卒男子の平均年収(六五六万二六〇〇円)に達する程度の年収を得られたであろう蓋然性を具体的に認めることができない以上、単に、原告が大卒の学歴を有しているからといつて、直ちに大卒男子の平均年収を逸失利益を算定するための基礎収入とすることは、原告の逸失利益を過大に評価し、適正な損害の填補が図られない失当なものといわざるを得ない。他方、前記アルバイト収入を逸失利益算定のための基礎収入とすることは、本件事故発生時における原告の将来性、発展の可能性等を全く顧慮しないこととなり、必ずしも衡平ではないということができる。
したがつて、原告が症状固定時(平成五年九月九日。甲五)において二九歳であつたこと、舞台俳優の仕事が学歴如何とは全く無関係であること等の事情を勘案し、原告が、いわゆる年功序列型賃金体系を背景として相対的に高額の所得を得ている中高年齢層を基礎データとして含む平成五年男子労働者全学歴全年齢平均年収(五四九万一六〇〇円)に相当する収入を将来にわたつて得られる蓋然性までは認め難いとしても、同二五歳ないし二九歳の平均年収(四二〇万〇三〇〇円)程度の収入は得られる蓋然性は高いと認め、右年収を逸失利益算定の基礎収入とすることが合理的であると考えられる。
(二) 労働能力喪失率
原告が、自賠責保険における後遺障害認定手続において併合七級の認定を受けたことからすると、労働能力喪失率は五六パーセントと評価するのが相当である(被告の前記主張については、これを認めるに足りる証拠がなく採用しない。)。
(三) 以上によれば、逸失利益は以下のとおりとなる。
四二〇万〇三〇〇円×〇・五六×一六・八六八(二九歳から六七歳までの三八年のライプニツツ係数)=三九六七万六三六九円
4 慰謝料 一〇八〇万円
(一) 入通院慰謝料 二三〇万円
原告の受傷部位、程度、前記認定に係る原告の入通院期間のほか、原告の立証活動が不十分であるために前記のとおり認めることができなかつたものの、原告が一定額の通院交通費や文書料を支出したであろうと思料されること、後記のとおり物損に関する損害が認められないこと、その他弁論に顕れた諸事情を総合的に勘案し、入通院慰謝料として二三〇万円をもつて相当と認める。
(二) 後遺症慰謝料 八五〇万円
原告の身体に残存した後遺症の内容や程度のほか、プロデユース等の形で一定程度は舞台の仕事に関わることができるとしても、原告の夢であつた舞台俳優としての自ら活躍する道が断たれたこと等の諸事情を勘案して、本件における相当な慰謝料としては八五〇万円を認める。
5 物損 認めない
本件事故によつて原告車が相当程度破損したことは一応窺えるものの、原告主張に係る損害が発生したことを認めるに足りる証拠が全くない。
6 小計
以上を合計すると、五九九三万一八三三円となり、前記のとおり過失相殺すると、二九九六万五九一六円(内治療費一二〇万六四六七円、休業損害一七一万一五六三円)となる。これから既払金(療養給付金二七九万六六四八円、休業補償給付金一六八万五九九八円、乙事件原告からの三〇九万六四九〇円、自賠責保険金九四九万円。なお、療養給付金は治療費に、休業補償給付金は休業損害にのみ填補されるものと解する。)を控除すると、以下のとおりとなる。
二九九六万五九一六円-(一二〇万六四六七円+一七一万一五六三円)-(三〇九万六四九〇円+九四九万円)=一四四六万一三九六円
7 弁護士費用
本件における弁護士費用としては一〇〇万円をもつて相当と認める。
8 合計
以上を合計すると、一五四六万一三九六円となる。
三 乙事件原告の請求額
前記争いのない事実によれば、本件事故による桑村の損害額が四一八七万〇八五五円であること、同損害については、原告車及び被告車に付されていた各自賠責保険契約に基づく自賠責保険金六九二万円、計一三八四万円のほか、乙事件原告からの二八〇三万〇八五五円をもつて填補が図られているところ、前記桑村の損害中、原告が負担すべき金額はその五〇パーセントである二〇九三万五四二七円であり、そのうち六九二万円は原告車の自賠責保険金から支払われているのであるから、残額、すなわち、乙事件原告が乙事件被告(甲事件原告)に対して求償し得る金額は一四〇一万五四二七円となる。
そして、求償金請求に係る弁護士費用としては一四〇万円をもつて相当と認められるから、乙事件原告は、乙事件被告(甲事件原告)に対し、一五四一万五四二七円及びこれに対する前記請求に係る遅延損害金の支払を求めることができる。
(裁判官 渡邉和義)
現場見取図
<省略>